ずっと見ている(日記)

歩いていたら、首に赤いバンダナを巻いたコーギーが、飼い主らしきおばあさんの準備が整うのを、家の前で待っている。うれしいのかどうかわからないけれど、傍目にはうれしそうに、白い帽子をかぶったおばあさんのまわりを行ったり来たりしている。「かわいいねえ」と言うと、舌を出したまま笑ったような顔で寄って来てくれる。「ありがとう」とおばあさんが言う。女の子なんだって。彼女のまわりを花がふわふわ舞い、桃色(どちらかというと、皮をむいたときの桃の色)の幸福感をまとっているみたい。 わたしのところにも花がすこし飛んできたみたい。

また歩きはじめて5分くらい経って、気がつけばあのコーギーが、おばあさんと一緒にわたしのうしろにいる。バンダナがとても似合っている彼女は、道端の草の生えているところ、電信柱の根元などを丁寧に確認しながら、歩いている。あいかわらずごきげんで、たのしそうだ。― そう見えるんだけれど、もしも彼女と話ができたとしたら、「たのしそうですって?わたし、とっても真剣に考え事をしているところなんだけれど」って言われたりするんだろうか。

二人は立ち止まるわたしをゆっくりと追い越してゆく。それで今度はうしろから、彼女たちが歩いてゆく様子を見る。顔が見えなくても、やっぱり彼女はたのしそうに見える。白と茶の毛並みが太陽の光に当たって輝き、どこかの草原のよう。草原の向こうにちらちらと見える、赤いバンダナの結び目。あちら側から歩いてくる人たちは、歩く草原の彼女に気がつくと、「あっ」となったり微笑んだり道をあけたりする。

体を左右に揺らしながら、立ち止まりながら、黄金の草原は歩いてゆき、角を曲がった。

歩いてゆく草原