この絵は、吉祥寺にある古本屋さん「百年」の入り口です。階段を上がって2階にあり、この絵を描いているときに、入り口が二重扉になっていることに気がついて、あたらめて己の瞳の「何もろくに見ていなさ」加減に驚きました。わたしは注意が散漫なので、絵を描いてみて、その都度ほんのすこしだけ、なにかに気がつくことができるみたいです。

百年で購入した古本には、とても大切な二冊があります。

一冊目は、1987年に初版の出た『不思議の国のアリス・オリジナル』(書籍情報社)。わたしが巡り合ったのは、1994年の14刷版です。
薄い半透明の帯もとってあって、「史上最高のプレゼント・ブック」と記されています。おそらく、持ち主がとても大切にしておられたようで、それはそれは感動的に
きれいな状態です。

箱に2冊の本が入っており、一冊はルイス・キャロルの直筆の『Alice’s Adventures under Ground(地下の国のアリス)』の複製。物語本文はもちろん、表紙と挿絵もたぶん右上のページ番号も(90ページまである)、ルイス・キャロルの直筆で、厚めのクリーム色の紙に印刷されています。読みやすい、手書きの文字がずっとずっと続いていくわけなのですが、その文字を追っかけていると不思議と、なんだか本が自身の物語を語る声に耳を澄ましているような気分になります。
もう一冊には解説と『Alice’s Adventures under Ground』の全訳が収められており、訳のほうには『不思議の国のアリス』のジョン・テニエル版の挿絵の、該当する部分が配されています。

二冊のほかには、縞の凹凸のある白い封筒としおりが入っていて、封筒のなかには、ルイス・キャロル(チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン)の撮影した“本物のアリス”、アリス・リデルの1859年の写真入りの二つ折りメッセージカード(ひらくと白紙でなにも書いてありません)。しおりのまんなかにも、楕円に切り抜かれたアリス・リデルの肖像写真が印刷されています。はたしてこの二つはもともと本とセットになっていたのか、前の持ち主が挟みこんでいたものなのかはわかりませんが。
この本はほんのたまに本棚から取り出して箱から出してそっとページをめくってまた箱に入れて本棚に戻します。

もう一冊は、1964年に初版の出たBrian Wildsmithの『MOTHER GOOSE A Collection of Nursery Rhymes』(Oxford University Press)の1987年版です。こちらには、マザーグースの言葉に合わせて、透明水彩やガッシュ、鉛筆、クレヨンなどを用いたBrian Wildsmithの絵がたっぷり。背景が白地が多く、その分、人物や建物や鳥などが色とりどりに、そしてとても勢いのある筆致で描かれています。色が混じりあったり滲んだり、薄かったり濃かったり、鉛筆の線が見え隠れしたり、本を開くたび、目たちは見つめる冒険に出かけていきます。

それからこの本には、はじめからかどうかはわからないのですが、透明の横じまの凹凸のあるカバーがついています。最近、このカバーの端が反ってきたので、引っ張られてなかの表紙の角も反ってしまい、本棚で分厚い本の間に挟みこんだりしているものの、ときおり取り出すと相変わらず反っています。カバーにちょっと切り込みを入れたら、引っ張りの力の逃げ場ができてよいのかもしれません。それはそれとして、わたしはこの渋い、透明の、横じまの入ったカバーというものがとても好きです。家計簿などにかけられているのを本屋さんでときどき見かけます。どこに行けば手に入るのでしょうね。


Written by mariko