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なかとそと、あちらとこちらとを繋ぐものとして、ドアや窓があるが、ドアにむかってわたしが決めなければいけないことは、たいていの場合、入るか/入らないか、である。

ドアノブがついていればひねるか、ひねらないか。ドアにセンサーがついていれば、センサーに感知される距離まで近づいて自動でドアを開けてもらうか、近づかないか。引き戸だったら、引くか、引かないか。そもそも多くの場合は、呼び鈴を鳴らしたりノックしたり、電子呼び鈴機の部屋番号を押して(くれぐれも番号を間違わないように!)、相手の声が聞こえたら、カメラのあたりを見ながら名を名乗って、相手がわたしの顔や様子や話しぶりを確認したうえでドアを開けてくれるのを待たなければ、中には入れない。

ドアの前でただ立っているさいに起こる出来事といえば、(1)何も起こらない (2)自動ドアが開いたり閉まったりをひたすらに繰り返し、微風が発生し続ける (3)中から人が出てきてぶつかり、「何か用ですか?」と怪訝に尋ねられ、場合によっては110番 (4)そのドアのなかに本当に入りたい人を通せんぼ (5)帰ってきた人を通せんぼし、「何か用ですか?」と怪訝に尋ねられ、場合によっては110番 (6)中から出てきた人、あるいは帰ってきた人に「何か用ですか?」と尋ねられ、「すてきなドアなのでつい立ちどまって眺めていました」と答え、「それはうれしいわ、実はこのドアは」という具合に話が弾む。その結果、そのドアの木の種類、ドアノブは旅行中に見つけてきたものであるということ、ペンキはどこのものか、窓にはめこんだステンドグラスはその人が作ったものであること、などを知る---等が考えられる。

ドアに対してわたしたちは、比較的いつも決断と行動をたずさえている。

そのいっぽう、窓に対して「入るか/入らないか」を潔く決断しなければならない局面というのは、さほど多くはない。窓はたぶん、そこから入ったり出たりするために設けられているものではない(光や風や虫や花粉は別にして)。そういうわけで、窓から出たり入ったりする行為が発生するのは、窓からしてみれば割合例外的で、泥棒、ジュリエットに会いたいロミオ、塔に閉じ込められてしまって髪の毛を編んでロープ代わりにしたラプンツェル、ドアの鍵が見当たらずに開いている窓を探した住人等の出入り口となるほか、災害時には避難路となる。

そして、「入るか/入らないか」の決断が不要であり、その前でぼんやり立っていても訝しがられないどころか、人を惹きつけるためにあるものがショーウィンドーである。ショーウィンドーの前で、わたしたちは気楽である。見ているだけだからだし、じっと見ていてもいいのだし、見ているあいだに肝心のドアを開けてなかに入るかどうかを考えていてもいいのである。

フィレンツェにあった1939年創業のお菓子屋さんの窓のむこうには、4段にわたってグラスや銀色のトレーに色とりどりのお菓子が飾られていた。日暮れ後の薄暗い街角で、わたしの目の前に浮かびあがるその窓は、あまりに鮮やかだったので、もともとイタリア語はわからないけれど、たとえば自分が異星人であったとしても、その窓のむこうにあるものたちが特別ななにかであると瞬間的にわかるだろうというくらい、まぶしいのだった。

ひとしきり窓の前でわれを忘れたあと、店のなかに入ると生菓子用のガラスケースや飲み物を注文するカウンターとは別に、持ち帰り用のお菓子を買う小さなカウンターがあって、女の人がひとり座っていた。窓に並んでいたお菓子たちが、透明の小袋に詰められてリボン付きの丸いシールをつけている。ほんとうは全部!と言いたかったけれど、とおはじきみたいな色とりどりの砂糖菓子(右の絵)を選んだ。

21時ころだったけれど、店のなかは賑わっていた。大げさだけれど、わたしは合計10ユーロで、星を買ったような気持ちでホテルへ帰ったのだった。

 

 

▲これはローマにあったパン屋さん。文字を形作るパンのゆるいフォルム、ゆるい並べ方。開店前です。

 

▲文房具屋さんFABRIANOのフィレンツェ店。鮮やかな色色の文房具や革製品が並びます。

わたしがここで買ったものは、ネームタグと手漉きの紙数サイズ、万年筆のLAMY用のカートリッジ数色(ドイツのものですが、ちょうど買い足したかったので)、LAMYの先っぽにつけかえられるカリグラフィー用のペン先2種類。日本製のペンなども並んでいました。
店員さんが見本で書いていたカリグラフィーの文字がとてもうつくしかったです。

FABRIANO社の歴史を綴った大型ヴィジュアル本が置いてありましたが、ページによって紙質が違っていたりして、なんとも欲しくなりました。

 

 

▲ローマにあった古本屋さん。お店は閉まっていましたが、とってもうつくしい図版入りの本たち、まじまじ見つめました。

 

▲これはバチカン美術館のなかの一角。丸いガラスがはめこまれた窓、ダイヤ柄のタイルが敷きつめられた床。

 

▲ヴェネチアングラスの生産地、ムラーノ島のガラス片のお店。モザイク画などに使うガラス片が色とりどりに並んでいました。
わたしは実物が貼りつけられた色見本のたぐいが大好きです。
下はガラス片を使ったアクセサリー。

 

▲これもムラーノ島で、風船のかたちのガラスがたくさん天井からつるされています。
色とりどりで、光も満ち溢れて、カメラもなにがなんだか分からなくなったような写真です。

 


Written by mariko