しょうねん

友だちと、友だちの家の近くの平らな緑地のようなところを散歩していると、プラスティックの飼育箱を抱えたちいさな男の子が3人いた。

ちょうど彼らに気付いたらすぐ、そのうちのひとりがこちらにやって来て、

「ねえ、なにしてんの?」

と言う。

「さんぽ」

とわたしは言う。それについての返答はないが、まったく平気である。

「じゃあ、かぶとむしとクワガタ見せてあげようか!」

と彼は言い、蛍光色のきみどりいろした飼育箱のふたを開ける。開けたふたの裏に、とてもりっぱなかぶとむしがくっついているのを、飼い主の彼は強力にはぎとろうとする。かぶとむしは、柵状のふたに脚をかけて、そうやすやすとは持ち上げられない。

「そんなに引っ張ったら脚がとれちゃうんじゃないの?」

とわたしは言ったが脚は取れずに、かぶとむしは少年の親指と人差し指によって宙に浮き、脚で宙をかいている。

ふかふかの地面に着地したかぶとむしは、濃い茶色で、一本のつの。いちおうわたしのほうが身体は大きいのだろうけど、じっと、落ち葉の上のかぶとむしを見ていると、だんぜんわたしよりも彼のほうが、ずいぶんと大きな存在に見えてくる。

「大きいねえ。じぶんでとったの?」

ときくと、

「朝4時半と夜8時にここに来てとった。あそこの樹が樹液が出るからいいよ」

と気前よく、かぶとむしたちの集合スポット情報まで教えてくれた。

「じゃあ、クワガタとたたかわせてあげよっか!」

飼育箱のなかにはクワガタも一匹お住まいであった。食べものは、ゼリーが2つ。

もうそろそろ分かってきたこととしては、わたしたちがなにを言おうとも、彼はかぶとむしとクワガタをたたかわせるところを見せるのだ。

それでクワガタも地上に降り立って、かぶとむしと対峙させられ、クワをカッとひらいた。かぶとむしのほうはそんなにいきなりやる気はなさそうであった。なかなか本格的なたたかいは始まらなさそうだったので、わたしときたらせっかちで、

「かぶとむしとクワガタってどっちが強いの?」

と聞く。

「かぶとのほうが強いよ。大きいし、つので相手をひっくりかえすんだ」

つのって実用的なんだなあ。

クワガタがあまりにじぶんをはさもうとしてくるので、ようやくかぶとむしがやる気になったころ、2匹は飼育ケースに戻ることとなった。飼い主とあと2人の少年たちは、なにかを探している途中なのだ。いつまでも、ここに立ちどまってはいられない。

最初とおなじにいつの間にか彼らとは別れて、さっき教えてくれた樹のところへ行ってみた。

じゅわ、とろり、、、という感じで、甘そうな樹液が幹から染み出し、くもり空のしたでつやつや照っていた。

この樹液で、あのかぶとむしはあんなに立派になったのか。

かぶとむし、クワガタ、じゅえき。

なんだか久しぶりにきいた言葉たちが、わたしのなかでバターのように光っていた。