月と星と太陽の日課

 

電車のなかでわたしがきょろきょろしていると、小さなAちゃんが「なんでそんなにきょろきょろしているの」と聞いた。

傍目にもきょろきょろしているのが明白だったことにすこし心のなかで苦笑いをしたのちに元気を取りもどして、「窓の外がとても暗くなったから、夜なんだなあと思ったんだよ」とこたえる。

といいますのも、電車に乗っていて反対側の壁にある窓のむこうが、あっちもこっちも暗い空だったので、あっちやこっちを向いていた(=きょろきょろ)のです。ほら、電車って長いから、椅子も長くて、窓も長いでしょ?それにしてもいやはや、よくわからないこたえですね。

すると彼女はぜんぜん納得していなく(当然である)、まず初めに眉間にしわを寄せ怪訝な顔をしたのちに、「夜なんだから、暗いのはあたりまえでしょ」と言った。

それでわたしはなぜだかすこし悔しくなり、「どうして夜になったら暗いのがあたりまえだと思うの」と聞いた。ちなみにわたし自身はあんまりよくわかっていない。自覚だけはあります。

そしたらAちゃんは「そんなのあたりまえだよ、だって、地球が回ってるでしょ」と言うので、わたしはぎくりとする。考えると頭がちんぷんかんぷん症状を呈するためなるべく意識しないようにしてふだん過ごしているところの、地球の自転、それに月の公転、それから地球の公転・・・・・・・・等について、もしかして彼女はすっかりとうに理解されておられるのでは。

「地球は回ってるかもしれないけどさ、それでどうして夜と朝が来るのかっていうことがわからないんだよね」

わたしはもっと真剣に考えるべきだと思うが、疑問をそのまま口に出す。Aちゃんは、そこで、もの知らぬわたしにこのようなことを言った。

「朝になると太陽が出るでしょ。夜になると、月が出て、星が見える日もあるよね。それは、朝が近くなってくると、月と星がぐぐっと集まって、まるまって、太陽になるの。夜に近づいたら、太陽はぱあっと散らばって、大きいのが月でそのほかは星になるの。そのくりかえし。だってぜんぶ光ってるでしょ」

月と星が集まるくだりでは、両掌をぐぐっと力をこめてひとつにまとめ、太陽が散らばるところはその両掌をあざやかに離した。説明のあいだ、彼女の瞳はしじゅうこちらを見ている。

わたしは、「なるほど」と言った。納得しました。

地球が回っているっていう部分はどこかにいきました。