来る日も来る日もチューリップを売る
傍目にはそう見えたとしても
わたしはひとりではなく
曾祖母やその姉妹や母や祖母や300年前の同じ年くらいの誰かとともに 街頭に立っている
ほら、あそこに今年もツバメが巣を作ったよ
と誰かが指させば
そちらを見上げる
眩しい太陽はわたしの肌色を祖先たちのそれに近づけてゆく
何年も何年もかけて
チューリップが売れても売れなくても
昼食はいつも抜き
チューリップが売れようが売れまいが
新しい靴を買わない
眠るときに土の匂いの指先を嗅いで思う
これから別の世界へゆくのだ
意識があろうとなかろうと
まぶたを閉じて
違う場所へ行くのだ
どこかから雨漏りの音がする
わたしは両手のひらに水滴をたっぷり溜めてボートを浮かべてそこ へ乗り込む
木の実や果物やジュースの瓶が入ったかごと一緒に
手のひらを広げると水滴の池はするりと流れ出す
弾むように小さなボートも外へ出る
わたしは櫂を精一杯こぐ
わたしがわたしから見えなくなるまで