さすが屋根がないだけのことはあり、コロッセオのなかも外と同じくよい天気であった。
雨や風や空気と2000年の間触れ合ってまるみを帯びたコンクリートの風合いは、小さかったころにとてもなじみのあった低い塀の表面によく似ていた。その上に座ったりその上を歩いたり、その上から地面に飛び降りて、足の裏から骨にじーんと振動が響いたりする。子どもがそうできるくらいの低い塀の上のところは、まるくなってざらざらしていた。


1960年に出た絵本、Miroslav Sasekの『This is Rome』のコロッセオのページには、こう書いてある。

“Rome was not built in a day”, but the Colosseum was built in eight years. The work was finished in the year 80, and there was room for 50,000 people to sit inside and watch the gladiators fighting.
But if you go inside today all you see are cats and tourists and photographers and postcard sellers.
----Miroslav Sasek 『This is Rome』(1960)


最後のところに「こんにちあなたがコロッセオのなかに入って見るものといえば、猫と旅行者と写真家とポストカード売りでしょう」と書いてあるが、少なくともわたしがコロッセオのなかに入った2015年の数時間に限っていえば、猫は一匹もおらず、旅行者はたくさん、写真家もいたとは思うけれどたいていの人(じぶんを含む)がカメラを持っているため簡単には区別がつかず、ポストカードにかんしてはいくつかある売店のなかで販売されていた。Sasek氏の絵(ほんとうにすてき!)では、ずらりとポストカードをアコーディオンみたいに持ってほほ笑むポストカード売りに、旅行者らしき男性がむすっとして「いりませんよ」という風に左手を突きだしているように見える。そのうしろの写真家は三脚の上に立派な黒い箱型カメラを乗せて、ネクタイを締めてスーツを着ている。そして彼らのまわりにたくさんの猫たち。黒猫、三毛猫、灰色の猫、17匹も描かれている。Sasek氏がローマを訪れた当時は、遺跡のあっちにもこっちにもよっぽど猫がいたのだろう。本が出版されて約55年後、わたしは一匹の猫も見なかったが、猫たちはいつどこへ行ったのかしら。

コロッセオ内部の階段は、一段一段が高い。
のぼってゆくと、屋根がある部分には展示室や事務室や売店やなんかがあり、屋根がない部分では、太陽の下
観客席であっただろう部分に座ってのんびりすることもできる。
チケットを買うために行列に並んでようやっと入ったコロッセオだが、おそらくコロッセオが非常に大きいため、
人はたくさんいるにも関わらずぎゅうぎゅうに混雑している感じもなく、わりあい好きに歩きまわって立ちどまったり座ったりが可能であった。素材もコンクリートであるからそう簡単にもぎり取って帰ることもできないし、剣闘士の兜についていた羽根が落ちていることもほとんどなさそうだし、そもそも山々や木々と同じように昔からずっと雨風にさらされてきたわけだし、猫もたくさん住んでいたのだし、堅くて大きな遺跡は、一から十まで神経質な管理をすることはないね、という気分をもたらすものなのかもしれない。
展示室では企画展が開催されていて、
発掘された古代イタリア半島界隈の女性像や装飾品など色々のものがガラスケースに入って並んでいた。


コロッセオが完成したのは80年、ポンペイ市を飲み込んだヴェスヴィオ火山の大噴火が79年、下のレリーフは62年にポンペイで起きた地震の際の様子が刻まれたものだとか。下の石碑の中央で荷台を引いて駆け出している生きものはラバなのだそうだ。


お土産の並ぶ売店では少々レジの列に並ぶ。
古代ローマのコインのレプリカを2種類買うと、レジの女性が「今からこれをお財布に入れて使っちゃったらどうですか?」と言ってお茶目に笑っていた。
それからパスタの本も購入した。コロッセオとはぜんぜん関係がないように思うが、2階の売店に平積みにされていて、そしてパスタと
イタリアとはたいへん深い関係がある。同じく丸い本でピザの一冊もあった。

あとはパノラマ風の横に長いポストカードや、ホログラムになっていて角度を変えるとコロッセオの欠けた部分が復元された姿が見えるマグネットを購入。
コロッセオってとっても大きかったが、わたしたちはこうして小さな復元コインや細長いポストカードや四角くて薄いマグネットやパスタの本を購入して持って帰るんである。
手のひらの上で眺めたり、本棚に立てたり、冷蔵庫に貼ったりできる小さなものを。


Written by mariko