うんともすんとも

ここ最近、電話番号を押して、発信ボタンを押すと、スマートフォンの画面が真っ暗になる。そしてその真っ暗画面は、押しても何の反応もない。音は聞こえるので、運よく相手が電話を取ってくれたら通話は可能である。

困るのは下記の場合。

(1)荷物の再配達を頼む際など、企業のオペレーターに繋がる前に、まずは要件別にダイヤルの番号を押さなければならない場合。

「お荷物のご用命はダイヤル1を、それ以外はダイヤル2を押してください」と自動音声に丁寧に要望されるので、ひとまず真っ暗な画面の、真っ暗じゃなければ本来ダイヤルが表示されていそうなあたりの、「1」がありそうな場所を押してみるが、なしのつぶて。延々、「お荷物のご用命はダイヤル1を、それ以外はダイヤル2を押してください」のメッセージのループを聞き続けることとなる。三回くらい案内し終えたところでいっこうに反応がないわけだから、自動音声の方も「アレ?相手の人、じぶんから電話かけてきたのに、聞いちゃいないのかしら?眠っちゃったのかしら?もう」って思って、「また今度冴えているときにかけなおしてくださいね」とかなんとか言って自動で電話を終了してくれるということもない。わたしが、「1」か「2」か「通話終了」のいずれかのボタンを押すまではメッセージは止まない。そしてどのボタンも、真っ暗な画面には見当たらない。いまやわたしのスマートフォンは、通話をやめられないのである。祈るようにして横の電源ボタンを長押しすると、しばらくしてスマートフォンが再起動される。今のところ、電話を切るにはいちいちスマートフォンを再起動するほかなさそうなのである。なんておおごと!

(2)相手の電話に電源が入っていないか、電波の届かない場所にいる場合。

かけてしまった電話をとってくれる相手がいないわけなので、やはり電話を切るしかない。切るまでの間ひたすらに(電源ボタンを押していても、そんなにすぐには切れないのです)、相手の電話に電源が入っていないか、電波の届かない場所にいることを、自動音声によって頭に刻み付けられる。

(3)相手が電話に出ない場合。

様々な事情で人は電話に出られないし、出ないことがある。それは重々承知している。だから、わたしからかかってきた電話が、出たくない・あるいは出られないのにもかかわらず、ずーーーーーっと、プルルルルルプルルルルルとあなたを呼び出し続けている場合は、電話を切りたいんだけど切るのに難儀してるんだなって思ってください。嫌がらせとかわからず屋とかそういうことではないんですよ。それにたぶん内容も大したことないでしょうから深く気にしないでください。

(4)相手が丁寧な場合。

小さいころに母に教えられたのは、「こちらから電話をかけた場合、お相手が電話を切るより先に切ってはいけない。ひとまず3秒くらい待ちなさい」ということで、遅刻したり忘れ物をしたり車のドアの閉め方がいまひとつだったり連絡が遅くなったりいろいろな失礼を数多くこなしてきた割に、なぜかそのマナー(?)はかたくなに守って暮らしてまいりました。

さて、お店などに電話をかけた場合、わたしから電話をかけているわけなんですが、先方のお気遣いにより、こちらが電話を先に切るのをを待ってくださいます。しかしながらわたしのスマートフォンはいまやスマートさを若干失ってしまっているために、電話を切るという、比較的簡単そうな作業が難儀です。そういうわけで、やさしい思いやり漂う沈黙がしばらく続き、そのうち「ん?き、切らないのかな?アレ?絶対にじぶんが後に切りたいタイプの人なのかな?」的気配があちらから発せられはじめたような気がしてくるころ、ようやくわたしの長押しボタンでスマートフォンが再起動されるか、十分な待機時間を取ったと判断して先方が受話器を置いてくださいます(実際には「電話を切るボタン」を押してくださっているんでしょうけれど)。ガチャ、という音がこれほどにほっとするとは、今回はじめて知りました。

こういう具合ですので、わたしから電話があった場合、あるいはそちらから電話をかけてくださった場合、いずれにしてもむしろ率先して電話を切って頂けますと幸いです。要件終わり次第すぐに。決して、わたしが余韻や沈黙が好きでいつまでもしみじみしながら受話器を置かないでいる様子を想像して、不可思議な思いを抱かれることのありませんように。

電話が切れると画面ははつらつとパッと元に戻り、そこにはダイヤルボタンもあるし、相手の名前や電話番号も表示され、なにもかもがあるいつも通り。インターネットもできるし、メールも送れるし、写真も取れる。(どうぶつの森にも行ける。)

そしてまた、発信ボタンを押した途端に真っ暗となり、画面のどこを触っても、うんともすんとも言わなくなるのである。

一時的なとんちんかん症状かな、と思っていたのだが、もう二週間くらいになってさすがに不便なので、新しいのを買うつもりだ。

新しいのを買う前に、データのバックアップを取らねばならない。---ねばならない、と声高に言うほど、わたしのスマートフォンに大した情報が詰まっているとも思えないのだけれど、一応取るつもりだ。そしてそのバックアップのバックアップも取ったほうがよいのだろうか。わたしはこの先何台のスマートフォン(及び進化した最新式の電話のような何か)を使い、一体どのくらいのバックアップを取るのだろう。スマートフォンに限らず、パソコンやカメラの膨大なバックアップは、いつになったら「バックアップしておくべきもの」と「うん、まあ、そんなに取っておかなくてもいいんじゃないあかなこれは」とに選り分けられるのだろう。世界中でいまも膨大に増え続けるバックアップたちは、100年後にはどうなっているんだろう。

わたしの机にはなんだっていつもいろんなものが載っかっているんだろう。(全部いつか使う。きっと。)

どうして本が本棚に入りきらないんだろう。(いつだって読みたい本は新しく見つかるし読んだ本もまたいつか読む。来週かもしれないし10年後かもしれない。)

どうして、いつかのために余分に買っておいたお菓子は、いつかどころかその日のうちに食べてしまうんだろう。

そういうわけで、気持ち新たに整理整頓を心がけようと思います。

新しいスマートフォンとも仲良くやっていけますように。