美術館の廊下の椅子に座っていたら、小学生らしい数人の女の子男の子、それから耳の下くらいまでに切り揃えた白髪の女性が歩いてきた。
壁沿いの、棚の置いてあるところで一人の女の子が立ち止まり、
「さっきの、メモしていいですか?」
とたずねる。艶のある黒髪と羽を広げたような素敵な眉の女の子。
「ああ、さっきのね。良いわよ」
と、少し先を歩いていた白髪の女性が立ち止まって返事をする。
「”ペリクルパッチーニ” って2回言うのよ。それで、階段降りたところで、”復活” って言うの」
“復活” のとき、女性は両腕を脇から40度くらいの角度に広げて、やじろべえみたいなポーズでぴたと止まってみせる。女の子は真剣にその様子を見ながら口をもごもごさせ、耳に入ってきた言葉を反芻し、メモを取る。
わたしは美術館の椅子に座っているのだけれど、もしかしたらここは魔法を教える学校なのかもしれない、と思ってしまうほど、女性の口からごく自然に出てきた “ペリクルパッチーニ” という言葉には馴染みがなかった。それに “復活” って、なんのことだろう。
この人は魔法使いで、魔法の先生なのかもしれない。彼女の首に巻かれた、黒地に彼岸花のような橙色やライム色の映える植物模様のスカーフが、魔法の先生としての存在感を際立たせているふうに見え、すっきりとした聞き取りやすい話し方にも、経験を積んできた魔法使いとしての説得力が漂っているーーーように思えてくる。
「わかった?さあ、行くわよ」
女の子がメモを取り終えたらしく、早く外に出たくて仕方がない様子の男の子たちに続き、先生と魔女見習いたちは歩いていった。
そのあと階段の下を通ったけれど、少なくともその時点では、小さな竜が復活しているとか、割れたガラスのコップが元通りになっているとか、そういう現象は起きていないようだった。わたしが気づいていないだけかもしれないけれど。
ペリクルパッチーニ。
ペリクルパッチーニ。