Neji in wonderland(日記)

scone

めがねのツルの、右側のネジが緩んだようで、気になっていた。耳にかけてしまえばさほど気にならないーというか忘れてしまうのだが、寝る前など、めがねをはずして畳んでテーブルに置こうとしたら、やけに右側のツルだけが、パタン!と意気揚々と閉じてくる。それにあえて気にし始めてしまうのなら、片方のネジの緩みのために、めがねが顔の中心からズレやすいような気がするー上下にも左右にも。

ようやく眼鏡店に行くと、ここでめがねを買ったときに担当だった男性が接客中であり、別の店員さんによれば、今このお店でネジを調整できるのは彼だけということだったので、椅子に座って待っていた。

お客さんが帰ったのち、カウンターの向こうでわたしの方に向き直った彼は、「めがねのネジが緩んだということですね」というので、わたしはめがねをはずして「右側です」と伝えた。両手でめがねを受け取りこちらに背を向けた彼の手もとで、おそらくとても小さなドライバーのようなもので、わたしのめがねの右側のネジは閉めなおされている。

「これでいかがでしょうか」と渡されためがねのツルは、顔の幅でピタリと止まってパタパタせず、外して閉じる際も意志が強く、「いえまだわたしは休憩を取るつもりはありません」という感じで踏ん張る。緩みは去ったのであった。

「普通に使っていたんですけど、片方のネジだけ緩んでしまったみたいで、不思議なんです。使い方で、何か気をつけることってありますか?」と尋ねたらば、「片方のネジだけが緩むことって、よくあることなんですよ」とのこと。店員さんの手もとできゅっきゅっと拭き上げられる我がめがね。

(なぜ、片方のネジだけが緩むことが、よくあるんですか?)
(ツルを耳にかけてる時間は左右で同じだし、外すときは左右同時だし)
(レンズを拭く時は真ん中の部分を持っているから、左右のネジには負荷がかかっていないはずだし)

わたしは「そうなんですか」と言って、渡されためがねをかけ、お礼を述べて、店を後にした。

(ネジの個体差ー緩みやすいものと緩みやすくないものーってそんなにばらつきがあるものなんですか?)

エレベーターに乗っているときも、お菓子売り場を通り抜けているときも、ぼーっと上の空。めがねのネジは閉めなおされたのに、めがねのネジについての疑問がわたしの視界をぼんやりさせる。

(それとも、、、?)

ぼんやりしていると店員さんがやって来て、

「よろしかったら履いてみてください」

と微笑みかけるので何かと思えば、わたしは通路沿いの靴売り場で水色の靴を凝視していたのだった。その靴は棚の最下段にあり、ネジについて考えていない方の、パラレルワールドのわたしが気に入ったらしく、確かにすてきであった。「腰痛がひどいのでまた今度にします」と言うと、「あら、大変ですね。お大事になさってください」と労わってくださる店員さん。ネジのことを考えてぼーっと立ち尽くしていたにすぎない通りすがりの腰痛のわたしー座るの立ち上がるのしゃがむのすべて難儀ーに親切にしてくださった彼女に幸あれと願う。