みかんをぱくぱく食べながら、果物がわたしたちに会う前から備えているところの皮って、なんてすごいのだろうと思う。

じぶんでじぶんの中身を守っているのだろうけど、それはわたしたちにとっても好都合で、ハンカチやノートを入れるようにみかんをかばんに入れて家を出て、行く先どこでも思い立ったら皮をむいて食べることができる。皮をむくまでその楕円形の橙色の中身はこぼれない。

皮は、魚も鳥も持っているし、”ひふ” という意味では、ヒトもイルカもきりんも持っている。”ひふ” が全体をくるんでくれているおかげで、わたしは心臓や脳や胃やこまごました血管を外にはみ出させずに、歩いたりお風呂に入ったり飛び跳ねたりできる。よだれが出るのは、眠っているときにいつの間にか口が開いているからだし、涙が出るのは目のはじまりのところが開いているからで、そこでは”ひふ” による中身はみ出し防止の効き目はありません。

とはいえ、ヒトはさておき魚や鳥と違って、みかんやりんごのすごいところは、ポータブルという点です。魚をかばんに入れて飛行機に持ち込んで、飛行が安定したころテーブルを出し、そこへ魚を置いたらば鱗をはがしてそのまま食べはじめたりはしませんが、みかんはむけば甘い中身がそこにあらわれる。塩やコショウや備長炭も換気扇も必要なし。派手になにかが飛び散る可能性も低い。皮をむくのに、ものすごい力や工夫も必要ない。見受けられるものとしては、一人ひとりの皮のむき方の趣向のようなものである。

上からむくか、下からむくか。皮をすべてつながった状態にむくか、もう全然つながりなんて気にしないでちぎれるようにちぎってしまうか。すじを丁寧に取り除くか、ちっとも気にしないか。たとえ一口で食べてしまえそうでも、さらに小さなパーツに分けて、親指と人差し指でつまんで口へ運ぶか、一口で食べてしまってしばらく会話不能になるか。むいた皮をお皿にするか、ティッシュを一枚広げるか。

わたしはできるなら皮はひとつながりにタコ的にむきたいと思っています。毎回うまくいくとは限りませんけど。

チェコに行ったとき、朝の出発が早いので、ホテルの方で朝食をお弁当(ポータブル)にしてくれるということで、どんなお弁当が出てくるんだろうと待っていましたら、透ける青のビニル袋を渡されました。バスに乗って袋を覗き込んだところのラインナップは、りんごが丸々一個、丸いパン、小さな容器に入ったジャム、銀紙に包まれた三角形のチーズ、ペットボトルの水・・・というような内容だったと思います。りんごがひとつ、そのまま。りんごははじめからじぶんでじぶんをくるんでいるのだ。

日本でいうところのお弁当は、そのままでは携帯できないものを携帯できるように、お弁当箱のなかにいろいろ工夫してぎゅっと詰めてあるもののことをイメージしがちです。卵焼き、おにぎり、梅干し、鮭、唐揚げ、ソーセージ、煮物、炒め物、ポテトサラダ、うさぎのりんご・・・。隙間を埋める役割を、お漬物やミニトマトが担ったり、味の境界線をレタスが担ったり、必要あれば魚の形の容器に入ったお醤油やつまようじが入って、そしてなぜだかうまく蓋が閉まっているのです!ときにいちごやぶどうなどの果物は、別個のお弁当箱に特別に鎮座しておられる場合もあります。それでその一個か二段か三つのお弁当箱はすべて、お箸ケースとともに一枚のすこし大きめの布にくるまれ、最後の結び目でもってかばんのなかで踊りださないようにまとめられ、運ばれます。それでお弁当の時間まで待機。冷えても時間が経ってもおいしいもの。

チェコのバスのなかで食べたりんごやパンは、お弁当というよりも、ずっと朝ごはんという感じがしました。テーブルのうえに並んでいるものをまるごとそのまま袋に入れた感じ。わたしはその、そのままさ加減がとても好きです。(お弁当のことはもちろん大好きです。)りんごはハンカチかなにかで拭いて、がぶり。一旦かじりはじめたら、もう皮の守りは破られますから、そのままひたすら芯まで食べ続ける。このあいだ、近所の銀行の前でりんごをかじっている外国の人を見ました。かばんのなかか、リュックかジャケットのポケットに入って銀行の前に来るまで、いっしょに旅をしていたりんご。両手できゅきゅっと磨かれてから食べはじめられるりんご。

それで、みかんの皮。りんごと違って食べないところ。なんだか捨てるのがもったいない。乾かしてお風呂に入れるほかに、調べてみたら、皮に含まれるクエン酸が水垢を落とすのに良いそうです。

早速、むきたてほやほやのみかんの皮で、蛇口やシンクを磨きます。ふうむ、たしかにすこしピカピカになったような。

もう一個食べます。その皮でさらに磨きます。さっきよりもピカピカになったような。

もう一個食べます。でももうこれ以上磨いても、この蛇口にかんしてはあんまり効果はなさそうな。

乾かしてお風呂に入れようと思います。


Written by mariko